最近の北野氏は何故かおかしいですが、モスクワ在住28年でロシアの事は知りゆくしています。
なので、情報の中立性を保つ意味で、敢えて北野氏の意見を投稿しておきます。
北野氏が以前のように正常な判断をされる時が来ることを期待しています。
北野幸伯のパワーゲームメルマガより
★ロシアに反プーチン・パルチザン
「国民共和国軍」(NRA)登場。ダリア・ドゥーギナ殺害に犯行声明
ダイレクト出版・パワーゲームメルマガ読者の皆さま、こんにちは!
北野幸伯です。
先日、プーチンのメンター、アレクサンドル・ドゥーギンの娘、ダリヤ・ドゥーギナが暗殺されたというニュースがありました。
この話で動きがあります。
「国民共和国軍」(NRA)が犯行声明を出したのです。
<“プーチンの頭脳”の娘 爆殺される犯行声明
FNNプライムオンライン8/22(月) 19:46配信
ロシアのプーチン大統領の側近、アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘・ダリア氏が乗った車が、モスクワで爆発し死亡した事件で、
ロシア国内の反プーチン勢力・国民共和国軍(NRA)が、犯行声明を出した。
犯行声明で、NRAは「プーチン大統領が民族戦争を起こし、ロシア兵を無意味な死へと追いやった軍事犯罪者だ」と批判した。>
この「国民共和国軍」とは、何でしょう?
誰も知りません。
犯行声明が出るまで、ロシア国民も含め、誰も聞いたことがなかったのです。
「国民共和国軍」の存在が明らかになった経緯は、どのようなものだったのでしょうか?
イリヤ・ポノマリョフという元下院議員がいます。
彼は2007年から、「公正ロシア」の議員でした。
2014年3月、彼は下院議員でただ一人、「クリミア併合」に反対します。
2014年6月、彼はロシアを脱出。
その後、外国に住みながら、反プーチン活動をつづけているのです。
そんなポノマリョフが、ダリヤ・ドゥーギナが殺された翌8月21日に動画を投稿しました。
ポノマリョフは動画の中で、誰がダリヤ・ドゥーギナを殺害したのかを語っています。
殺害したのは、「ナツィオナリナヤ・リスプブリカンスカヤ・アルミヤ」(国民共和国軍=NRA)だと。
ポノマリョフが国民共和国軍を創ったとか、メンバーだというのではなく、国民共和国軍とメールなどで交流している。
国民共和国軍は、ポノマリョフに、彼らのマニフェストを読み上げる許可をくれたとのこと。
ここまでの話、動画で見ることができます。
ロシア語がわからなくても、英語字幕がついています。
興味がある人は、是非ごらんになってください。
↓
https://www.youtube.com/watch?v=7ydgjekMr1c
国民共和国軍のマニフェスト。長くなるので、全部は書きません。
マニフェストの本質は、「プーチンは、我々によって追放され、破滅させられる」という部分でしょう。
要するに、国民共和国軍は、「武力で、プーチン政権を打倒する」と宣言しているのです。
今まで、このようなことを宣言する団体は、ロシアにありませんでした。
国民共和国軍が誕生した二つの背景についてお話ししましょう。
▼敗れたナワリヌイの平和路線
これまで「プーチン最大の敵」といえば、アレクセイ・ナワリヌイでした。
彼は、「ロシア一の政治ユーチューバー」でもありました。
チャンネル登録者数は、641万人です。
ナワリヌイの戦い方は、プーチンと政府高官の汚職を動画で暴露する。そして、反政権デモを起こす、でした。
ナワリヌイ最大のヒットは、「プーチンのための宮殿」という動画です。
↓
https://www.youtube.com/watch?v=ipAnwilMncI&t=1902s
この動画は、これまでに1億2400万回再生されています。
ロシアの人口は、1億4600万人。
つまり、ネットを使えない子供たち、おじいちゃん、おばあちゃん以外は、ほとんど見た感じなのです。
この動画は、「プーチンは、真の愛国者で物欲が全然なく、国民によりそって質素に暮らしている」というプーチン神話を完全に破壊しました。
2021年1月にこの動画が配信されると、私は、有料サービス「パワーゲーム」などで、「これでプーチンは神話による統治ができなくなる。
これからは、力と恐怖の統治になる」
と予測しました。そして、そうなったのです。
今、ロシアでは、「戦争反対」というプラカードをもって歩けば、逮捕されます。
それだけでなく、SNSに「戦争反対」と投稿すると逮捕されます。
2021年1月、ナワリヌイは逮捕されました。
ナワリヌイの同志は、一部は逮捕され、ほとんどは外国に脱出しました。
そして、野党系テレビ「ドシディ」、野党系ラジオ「モスクワのこだま」、野党系新聞「ノーヴァヤ・ガゼータ」などは、活動停止に追い込まれました。
さらに、既述の理由で、反戦デモはまったくできなくなりました。
ナワリヌイの「平和路線」は、大きな成果をあげました。
プーチン信仰の根っこの部分を破壊することに成功した。
しかし、「言論」「デモ」を、力で完全に封じられた反プーチン勢力には、「武力で戦う」しか道が残っていないのでしょう。
(*とはいえ、国民共和国軍=ナワリヌイグループという意味ではありません。)
▼賢明な将校たちは、ウクライナ侵攻に反対していた
もう一つ。私はウクライナ侵攻前の2月16日、
◆「全ロシア将校協会が「プーチン辞任」を要求…! キエフ制圧でも 戦略的敗北は避けられない」という記事を現代ビジネスから出しました。
↓
https://gendai.media/articles/-/92504
参考までにウクライナ侵攻開始は2月24日です。
この記事の内容は、
全ロシア将校協会が「ウクライナ侵攻中止」「プーチン辞任」を求める「公開書簡」を公表したという衝撃の内容でした。
なぜ、全ロシア将校協会は、ウクライナ侵攻中止を要求したのでしょうか?
全ロシア将校協会のイヴァショフ退役上級大将は、ウクライナ侵攻の結果について、以下のような見通しをもっていました。
< ロシアは間違いなく平和と国際安全保障を脅かす国のカテゴリーに分類され、最も厳しい制裁の対象となり、国際社会で孤立し、
おそらく独立国家の地位を奪われるだろう>
(全ロシア将校協会1月31日の公開書簡から)
要するに、イヴァショフは、「ウクライナに侵攻すれば、ロシアは大戦略的に敗北する」ので、反対していた。
もっと興味深いのは、「ウクライナ侵攻の動機」です。
プーチンは、
・ウクライナをNATOに加盟させないため
・ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を守るため
・ウクライナを「非ナチス化」「非軍事化」するため
・ウクライナがロシア攻撃を企てていたため
などと説明しています。
しかし、全ロシア将校協会は、これらのプーチンの解説をまったく信じていません。
私の記事、現代ビジネス2月16日から引用してみましょう。
<イヴァショフによると、
「ロシアは現在、深刻なシステム危機に陥っている。
しかも、ロシアの指導者たちは、国をシステム危機から救うことができないことを理解している。
システム危機が続くことで、いずれ民衆が蜂起し、政権交代が起こる可能性が出てくる」
だが、ウクライナに侵攻すれば、どうだろうか?
イヴァショフは次のように言う。
「戦争は、しばらくの期間、反国家的権力と、国民から盗んだ富を守るための手段だ」彼と将校協会から見ると、「ウクライナ侵攻」は、プーチンが
「自分の権力と富を守るためだけの戦争」なので、辞任を要求したのだ。>
そして、実際、戦争がはじめるとプーチンの支持率は83%まで急上昇したのです。
しかし、「戦争、真の動機は、プーチン自身の権力と富を守ることだけ」と考える元将校、将校、軍人たちは、「プーチンは許しがたい!」
と考えていることでしょう。
ウクライナ戦争がはじまって約半年。結局、イヴァショフと全ロシア将校協会の予測が正確だったことが明らかになってきました。
彼らが、国民共和国軍と関係があるとは思いません。
しかし、軍人の一部が、国民共和国軍に参加している可能性はあるでしょう。
▼国民共和国軍登場で、何が変わる?
ロシアにはじめて、「武力によるプーチン政権打倒!」を掲げる団体が登場しました。
現状、犠牲者はダリヤ・ドゥーギナ一人です。
これから、国民共和国軍の犠牲者が増えてくると、状況が変わってくるかもしれません。
そういえば、ロシア最後の皇帝ニコライ2世は、第1次世界大戦を戦いながら、国内の革命勢力と戦わなければなりませんでした。
結局、ニコライ2世は失脚。1917年10月の革命で権力を握ったレーニンは、第一次大戦から撤退することにしました。
国民共和国軍が、どれくらい実体があるのか、現時点では不明です。
これから徐々に明らかになってくることでしょう。
「武力でプーチン政権を打倒する!」と宣言する団体が登場した。
そして、(おそらく)実際にプーチンのメンターの娘を殺した。
このことは、ロシアの支配層に巨大な衝撃を与えているに違いありません。
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このメルマガ の著者:
国際関係アナリスト
北野 幸伯
「卒業生の半分は外交官、半分はKGBに」と言われたエリート大学:ロシア外務省付属モスクワ国際関係大学を日本人として初めて卒業。
その後、カルムイキヤ共和国の大統領顧問に就任。
大国を動かす支配者層の目線から世界の大局を読むことで、数々の予測を的中。
自身のメルマガは、ロシアに進出するほとんどの日系大手企業、金融機関、政府機関のエリート層から支持されている。
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